投資額が5年で5倍!シリコンバレーの著名VCが続々投資する建設×ITスタートアップまとめ
はじめに
こんにちは、内装会社のプラットフォーム”SHELFY”でブランドマネジメントをしている鈴木です。
弊社は建設×ITという領域で事業を展開しているため、どちらの業界の方々ともお話する機会が頻繁にあるのですが、IT業界の方に建設業界のレガシーエピソード(FAXが当たり前に使われている、クラウドは禁止な会社が多い、、etc)をお話すると大抵かなり驚かれます。笑 そしてそのあとに「アメリカだと進んでたりするんですか?」という質問をいただくことが多いので、今回はアメリカにおける建設×ITについて書きました!
建設業界を変革しようとしているスタートアップにY CombinatorやANDREESSEN HOROWITZなどシリコンバレーの有名VCたちが続々投資をしているのをご存知でしょうか?そんなレガシー産業の代表とも言える建設業界を変えようと挑戦している“Construction-Tech”(以下:Con-Tech) スタートアップを解説します。
Con-Techの中でも最も盛り上がっている分野を4つに分け、それぞれの領域で調達金額が多いスタートアップTOP2をピックアップしました。もちろん調達金額≠サービスの価値ですが、統一した軸で比較するためには公開情報である必要があるので今回は調達金額を採用しています。
※1本記事に掲載の全ての情報は2017年6月現在に確認できる各社ホームページやメディアでの発言、アンオフィシャルな場での関係者からのインタビューを元に作成しています。
※2 分かりやすくするためにあえて文中の調達金額等はドル表記ではなく、円表記にしています。為替により実際の金額は日々異なるので、$1=¥100円として計算しています。
※3 米国ではConstrac-Tech(コンストラクテック)と書いてるメディアもいくつかあるのですが、純ジャパの私には発音しづらすぎるので採用しませんでした。笑
そもそも建設市場ってどんなところ?
具体的な社名をご紹介する前に、建設業界と聞いても馴染みのない方がほとんどだと思うので、まずは簡単に建設市場の規模や特徴についてご説明します。すでにある程度知ってるよ!という方は読み飛ばしていただいて構いません。
市場規模がめちゃくちゃ大きいかつ成長中
建設市場はグローバルでは約850兆円、アメリカだけで110兆円と言われいます(2015年末時点)。また大きいだけでなく、まだ成長している稀有な市場で、2020年にはグローバルで1000兆円、アメリカで150兆円の市場になると言われています。
日本でも52兆円と国内で2番目に大きい市場です。また東京オリンピックにより日本は世界平均よりも成長率が高くなると予想されています。
なぜITの導入が進まないのか
なんとなく建設業界というとITリテラシーが低いイメージがあるかもしれませんが、世界中どの地域でも建設業界はまだ電話や紙がコミュニケーションの中心となっています。では「なぜ建設はIT化が進まないのか?」というと2つの理由があります。
・仕組み化が難しい
土壌や面積といった前提条件はもちろん、工事の種類、遵守すべき法律など、同じ工事現場は2つとしてなく、各現場ごとにやるべきことも業務フローも毎回大きく異なります。そのためITが得意とする標準化や仕組み化が難しく、シンプルなプロダクトで一点突破というITベンチャーの特技が通用しにくかったのです。
・関わる人が多い
動くお金が大きいということはそれだけ関わる人が多いということです。1つの工事においても、元請け、下請け、孫請けといった上下関係に加え、電気、壁、、など業種別に約20業種の専門業者が水平関係に関わります。これにより何が起きるのかというと、「この見積書はクライアントに見せていいが、下請けにはダメ」「これは社内閲覧専用」など情報のアクセス権限が非常に複雑になっています。そのためクリック一つで誰に見せてしまうか分からないWEBより、誰に渡したかが明確でそのあと回収もできる紙が重宝されがちでした。
2015年にCon-Techへの投資金額が5倍に
そんな建設市場に変化が訪れたのが2015年頃で、アメリカでは2010年には50億円だったConstruction -Tech(建設スタートアップ)への投資額が、2015年には5倍の250億円になりました。
以降も2016年にオラクルが工事契約・支払いのためのサービスTexturaを600億で買収、2017年にはいってからは、イスラエルに建設スタートアップ専門のインキュベーションオフィスがOPENしたり、つい先日も時価総額1000億以上のユニコーン企業であるWeWorkがfieldlensというプロジェクトマネジメントソフトの買収を発表したりと盛り上がりを見せています。
なぜ2015年頃建設スタートアップへの投資が活発化したのかというと、下記3つの変化が一気に起きたからだと言われています。
①タブレットなど現場に持っていけるデバイスが発達し、どんな現場でもネットに繋げるようになった②SNSやアプリなど個人向けサービスが浸透し、仕事でも同様のツールを使いたいというニーズの増加
③技能労働者不足の深刻化により、IT活用が必須になった
Con-Techの主要な4分野と主なプレイヤー
マクロな情報を理解していただいたとことで、さっそく具体的なプレイヤーを紹介していきましょう。Con-Techのプレイヤーは主に下記4つの領域に分類することができます。
1.マーケットプレイス:建機の売り買い&貸し借り
2.プロジェクトマネジメント:全ての工程を見える化し、関係者のコミュニケーションを円滑にする
3.次世代ブループリント:設計図と他の情報をつなげ、関係者が簡単にやりとりできようにする
4.マッチングプラットフォーム:発注者と受注者(設計会社や工事会社)を引き合わせる
1.マーケットプレイス
「インターネットの普及といえばECから」というのが定説ですが、Con-Techでも建機の売買や貸し借りからWEB化が始まりました。そのためこの分野は2000年前後に創業されている、非常に歴史がある会社が多いのが特徴です。
・IronPlanet:建機のオークションサイト
・設立:1999年
・調達額(円):135億
・ターゲット:建設業者
・コアバリュー:建機の検査、補償、運搬を1ストップで可能に
・ビジネスモデル:買い手への成約課金 (売却額の3.85%~10%)
・主要な数字:年間の流通総額約1000億円
日本No.1の建機メーカー、コマツも出資しており、2016年にカナダのオークション会社に約750億で買収されました。1999創業という歴史の長さに驚かされます。
・SmartEquip:
・設立:2001年
・調達額(円):18億
・ターゲット:メーカー、レンタル会社、ディーラー
・コアバリュー:部品EC、配送、コミュニティなどレンタルに必要なものが全て用意されている
・ビジネスモデル:EC手数料+システム利用料 (非公開)
・主要な数字:流通総額2000億円
IronPlanetと似ていますが、SmartEquipはレンタル領域に特化しています。またEC機能に加えて、建機の状態を管理できるSaaSも提供しているのが特徴です。
2.プロジェクトマネジメント
コンストラクション・マネジメントソフトウェア(CMS)と呼ばれる領域で、設計〜竣工までの全プロセスにおいて電話やメールで成り立っているコミュニケーションをWEBやアプリで代替しようとしているサービスです。こういったソフトウェアは1つの工事に関わる人全員が使わないとワークしないため、彼らの細かいニーズに合わせてどのプロダクトも機能はモリモリで、営業によって大企業から導入を進めていくというセールスフォース的な戦い方をしています。
・Procore:総合型マネジメントソフトウェア
・設立:2003年
・調達額(円):100億
・ターゲット:発注者、設計会社、施工会社、ゼネコンなど工事に関わるあらゆる人
・コアバリュー:ニーズを網羅する多数の機能、カスタマーサポートの手厚さ+トレーニングの丁寧さ
・ビジネスモデル:使用するプロジェクトの数に応じて会社ごとの年間契約 (単価:120万円〜1億円/社)
・主要な数字:有料顧客1600社、2016年度の売上55億
まだ建設現場にインターネットが通ってない頃から大企業向けに販売を開始、ネット環境を設置してあげる代わりにプロダクトを導入させていくという手法をとり、広がりました。その後リーマンショックによりライバルプロダクトがほぼ撤退したのを好機として、創業から10年以上経った2014年にはじめての大型調達。営業やマーケを大量に雇い、中小企業へも広がろうとしています。
・New Forma:Procoreの一番競合
・設立:2003年
・調達額(円):25億
・ターゲット:発注者、設計会社、施工会社、ゼネコンなど工事に関わるあらゆる人
・コアバリュー:ほぼProcoreと同じ+クラウド/ローカル、ユーザーごとなど権限設定が細かくできる
・ビジネスモデル:つかう機能ごとに年間契約 (価格非公開)
・主要な数字:有料顧客1350社
Procoreと創業年度も同じで、プロダクトももかなり似ています。一方CEOに着目すると、Procoreはシリコンバレーでエンジニアとして働いていたTooeyが自宅工事で不便を感じたのをきっかけに立ち上げたのに対し、NewFormaはCADをつくっているAutodesk出身で、BIM(Bilding Information Technology)の第一人者的存在だったHoweelが立ち上げており、シリコンバレー vs 建設業界出身者の違いが細かなプロダクトの機能の違いを生んでいるとも言われています。
3.次世代ブループリント(図面)
建設現場では紙で書かれた図面が現場に貼ってあることも多いのですが、ここではそういった図面をいかにWEBで置き換えるかに挑戦しているスタートアップを紹介します。前述したプロジェクトマネジメントに比べて、創業年度も若く、ひとつの突出した機能をもって突破する戦略をとっているのが特徴です。
・PlanGrid:図面に情報を一体化
・設立:2011年
・調達額(円):62億
・ターゲット:発注者、設計会社、施工会社
・コアバリュー:設計図をどこでも編集&閲覧できる。オフラインでも使用可能。
・ビジネスモデル:PlanGridへ取り込む設計図の枚数で従量課金(1ユーザー$40~$120/月)
・主要な数字:65万ユーザー(無料, 有料どちらも含む)
Y CombinatotのDEMODAYからスタートしたサービスで、「競合は他のソフトウェアではなく”紙”だ」というCEOの発言の通り、図面と工事現場のリアルタイムな情報とを結びつけることに特化しています。主に中小企業で働く現場監督をターゲットにしているため、現時点での売上はかなり低いのではと思われますが、プロダクトのデモやメンバーの経歴を見る限りは開発力がかなり強いチームなので今後爆発的に使われる可能性も高いかもしれません。
・Flux.io:BIMを活用したデザイン設計ツール
・設立:2012年
・調達額(円):44億
・ターゲット:設計会社
・コアバリュー:建築設計業務における大幅な業務効率
・ビジネスモデル:1ユーザー毎に月額$60
・主要な数字:なし
Google Xのプロジェクトの1つからスピンアウトしたサービスです。日本でBIMを導入するとなると高額なソフトを買うのが通常ですが、Flux.ioは1ユーザー$60と非常に安価であるのに加え、3Dモデルの自動生成やデータ共有の簡易さが強みとなっています。
4.マッチングプラットフォーム
日本のように新築信仰がないアメリカでは住宅の耐用年数が長く、リフォーム・リノベーションが活発です。にもかかわらず、リフォーム業者の情報はどこにもまとまっておらず、業者選びが非常にストレスフルな体験となっていたのに目を付け、受注者と発注者をマッチングすることで伸びたマッチングプラットフォームです。
・Houzz:デザインのイメージ写真から入るマッチング
・設立:2009年
・調達額(円):613億
・ターゲット:リフォーム・リノベーションの発注者と受注者
・コアバリュー:ユーザーが選択したデザインイメージに合わせて業者や家具が見つかる
・ビジネスモデル:受注者からのリスティング広告+EC手数料
・主要な数字:月間ユニークユーザー数2500万, 受注ユーザー登録数150万
直近でも約400億円の調達を発表していましたが、リフォーム・リノベーションマッチングの領域では老舗の巨人であり、日本含めイギリス、インドなど世界展開もしているのでもはや説明の必要はないかもしれません。ユーザーはデザインのイメージを集めるためにサイトに訪れ、その後に業者への発注やECによる家具の購入に繋がるという設計です。2013年にはPorchというほぼ同じモデルの競合も登場しており、こちらも計100億ほどを調達しています。
・BuildZoom:データドリブンなマッチング
・設立:2012年
・調達額(円):18億
・ターゲット:リフォーム・リノベーションの発注者と受注者
・コアバリュー:大量のデータによる検索のしやすさとマッチングまでの丁寧さ
・ビジネスモデル:成約した場合にのみ発注金額の2.5%(+で受注者への月額プランあり)
・主要な数字:流通総額2000億円/年、登録社数85,000社
Y combinator出身で、ピーターティール等有名VCから出資を受けていることからも注目を集めています。CEOのDavidは、競合サイトがレビュー重視を打ち出す中で(BuildZoomにもレビューはあるものの)「どの業者が何の工事資格を持っているのか」「この土地に過去建っていた家とそれらを手掛けた業者」といった”データ”を重視していくと発言し、MITと共同研究するなど差別化を図っています。また成約してはじめて売上が発生するモデルなので、高額な案件に集中するのはもちろん、カスタマサポートが契約までをかなり手厚くフォローしている点が他のマッチングと大きく異なります。
おわりに
読んでいただいた方々の多くはおそらく「じゃあ日本における建設スタートアップはどうなっているのか?」と思われているかもしれませんが、そちらはまた近日中に別の記事で書きたいと思います^^
個人的には、今回ご紹介したCon-Techスタートアップの多くを見ると、鼻息荒く「レガシー業界へのイノベーション!!!」という感じよりも、ステークホルダー全員のことを踏まえた絶妙なバランスの意思決定と誠実な対応の積み上げが結果に繋がっているのだなと感じます。
また今回は”Tech”ではないので省きましたが、テスラの元CEO Michael Marksが2015年に立ち上げ、200億円以上を調達、爆発的な成長をしている全く新しいゼネコン”Katerra”も調べてみると面白いのでぜひ。
変革には時間がかかると誰もが思っていた建設業界において、創業して2年足らずで全米のゼネコンTOP20に入るというアメリカらしいパワープレイをしています。笑
これだけ大きく歴史のある市場を変えていくのは決して簡単ではありませんが、SHELFYもその一員として建設業界を少しでも前に進めていきたいと思います。
Con-Techおよびその他建設×ITに関してのお問い合わせは下記よりお気軽にどうぞ!
シェルフィー株式会社・ブランドマネジメント統括
鈴木晶子(スズキ ショウコ)
https://www.facebook.com/shokosuzuki1122
shoko.suzuki@shelfy.jp
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